3Dプリンタフィラメントの予備加熱

作成日:2024/02/12
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FDM方式3Dプリンタで使用する材料(PLA、ABS等)は一般に吸湿する特性を持っています。
このため、新品のフィラメントは真空パックにより在庫・輸送中の吸湿を防いでいます。
しかしながら、使用のために封を切ってしまうとその瞬間から吸湿が始まり、
1~2ヶ月(梅雨など多湿期ではもっと短い時間)で使用不能レベルまで吸湿してしまいます。
このように吸湿した材料を乾燥させ、新品同様の特性を取り戻すための処置が「予備乾燥」です。


樹脂材料の吸湿

ABS・PLAに代表される樹脂材料は、大気中の水分を吸収します。
材料中に水分が多く含まれたまま3Dプリンタにて造成を行うと、以下のような不都合が生じます。

特に3番目のノズル詰まりが厄介で、何回もノズルを交換しているのにノズル詰まりがすぐ発生するという
ケースでは、大抵材料の吸湿が原因となっています。


フィラメントの予備乾燥

上記のように、吸湿した材料を使用すると様々な不都合が発生します。
ここで同じように樹脂材料を使用する射出成形加工の現場では、
樹脂の使用前に「予備乾燥」という処置を行うことで、材料中の水分を飛ばしています。
以下に材料ごとの予備乾燥条件の例を示します。
材料 予備乾燥温度[℃] 乾燥時間[h]
ABS樹脂 70-80 2-3
PLA樹脂 80 2
ポリカーボネート(PC) 120 4-6
ナイロン 80 8-15

予備乾燥には一般に熱風循環式乾燥機が利用されます。
これは材料を乾燥箱等にセットし、箱の下端から電気・ガス等の熱源により発生させた
熱風をファンにより強制的に通風することで材料を乾燥させるものです。


布団乾燥機を利用した材料の乾燥

ここで、FDM方式3Dプリンタでよく使われる材料であるABSやPLAの乾燥条件を見ると、
70-80℃程度と比較的低温かつ短時間の乾燥で済むことが分かります。
そこで、一般家庭で運用可能な熱風を発生させる装置として「布団乾燥機」 を利用した予備乾燥を行ってみました。
条件は以下の通りです。


乾燥箱は適当なものがなかったため、ゴミ袋の一端に穴を開けたものにフィラメントリールを入れ、
布団乾燥機のホースを突っ込んだ後リピートタイで口を締め付けました。
布団乾燥機としては非常に送気抵抗が大きく厳しい環境となりますが、
サーモスタットが内蔵されているようでヒータのON・OFFを繰り返しながら
ある程度一定の送気温度を保っているようです。

予備乾燥の結果

上記の条件にて予備乾燥を実施した所、造形物表面の外観不良は皆無となり
ノズル詰まりも全く起きなくなりました。(画像参照)
予備乾燥を行ってから1週間程度は新品同様の造形結果を得られますが、それ以上放置すると再び吸湿するようで
造形物表面の荒れ・糸引きが見られるようになりました。
このため、予備乾燥から1週間以上経った材料は再び予備乾燥を行ってから使用する運用としています。